木曜日, 1月 12, 2006

音楽エッセー(5)

脱・固定観念

 私たちは固定観念に縛られて生きている。それは、習慣と呼び変えても良いと思う。定期的に行われることに期待するのだ。
 上手な手品師は、タネを見破られることなく、上手な料理人はお客の舌を満足させることを望まれ、華麗なピアニストは流れるように優美にメロディーを奏でることを欲せられる。

 そして、セロニアス・モンクの登場である。有体にいえば何かが変わっている。最初はこんな筈ではないと考える。でも、ある瞬間ここちよく聴いていることに、あの音楽に取り囲まれていることに気付き呆然とする。奇妙だと感じていたのは、つい先刻のことではないか。

 また仕事が終わった帰り途、口笛で彼の作った曲を吹いてみる。Blue Monkなんかを。軽快で、流暢とも饒舌とも不思議な新鮮さがある。たどたどしい音楽だと、口ごもり気味な人との会話のようだと考えていたのは嘘なのか。いつの間にか、騙されていたのか。

  その音楽から一時は離れたり、またくっついたり、やっかいなミュージシャンである。彼の音楽をジャズ・フアンは理解しなければ、好きと言わなければアマ チュアだという思い込みも、逆に固定観念である。フル・コースより、気楽に一風変わったシェフの創作料理をお楽しみください、くらいの気分で。

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